2023.03.14

Media Coverage

『住宅新報web』の“防音賃貸”特集において、「ASTILE studio経堂」に関する記事が掲載されました

2023.03.14 住宅新報1面 / 住宅新報web

“防音賃貸”市場「コロナ禍でニーズ拡大」 賃料アップでもウェイティングリスト「10倍」に

アスコット「アスティーレスタジオ経堂」内観

 マンションをはじめとした賃貸物件に高性能な防音仕様を施し、自由に音楽などを楽しめる空間を用意した〝防音賃貸住宅〟。楽器を演奏する単身者層を主なターゲットとし、おおむね2000年代初頭から開発・供給が行われており、多くの中堅~大手ディベロッパーや設計事務所などが手掛けている。更に近年、その防音賃貸のニーズと供給が顕著に拡大しており、独自の路線で新規参入するケースも目立っている。いくつかの事例から、その背景や特徴、市場環境と今後の展望を探った。(佐藤順真)

リブラン「ミュージションテラス中野中央」外観

  • テレワークや動画配信など

 防音賃貸の市場について供給事業者に話を聞くと、基本的に「コロナ禍が契機となって近年ニーズが拡大した」という点について、各社とも見解が一致している。周知の通り、20年春ごろからの行動制限やリモートワークの普及は、自宅時間の増加につながり、住環境への関心を高めた。そこで付加価値提案として「防音」が改めて注目され、需要が増したという流れだ。

 同時にコロナ禍は、それまでも潜在的にあった「楽器演奏」以外のニーズを顕在化し、防音賃貸の用途の多様化を促した。そして請負事業における土地オーナーからの認知も進み、保有物件としても安定したインカムゲインが見込めるとの判断も広がった。

 22年11月、初となる防音賃貸マンション「ASTILE studio(アスティーレスタジオ)経堂」(東京都世田谷区、全14戸)の入居募集を開始したアスコットは、「コロナ禍で『おうち時間』が見直された社会背景に着目し、開発に至った」と経緯を説明。同社企画建設本部長の河本光正氏は「従来の防音マンションとの差別化も図り、生活空間としての居心地を追求」する意味で、明確に「『音楽マンション』ではなく、『防音マンション』とうたっている」と説明した。

 そこで挙げられている用途は楽器演奏のほか、フィットネスやホームパーティ、eスポーツ等のインターネット配信における〝外への防音〟と、テレワークや夜勤者の昼間の就寝など、〝内の静けさ〟に対するニーズの双方を想定している。反響は良好な様子で、リーシング開始後1カ月で過半数が稼働、申し込みベースでは3月10日現在既に満室となっている。

 とりわけ、ネット配信の普及によるニーズ拡大は顕著だ。00年から継続的に「ミュージション」シリーズを供給し、「防音賃貸の先駆け」を自負するリブランも、新たなニーズを強く意識している。21年9月竣工の「ミュージション品川中延」(東京都品川区、全19戸)で初めて「YouTuber・ゲーマー向けフロア」を設け、直近の23年2月に竣工した木造テラスハウス型「ミュージションテラス中野中央」(東京都中野区、全5戸)においても、高速インターネットの導入環境を整えるなど、ネット配信需要を開発の念頭に置いている。

 このほかにも、「取材や事業詳細の公開は禁止」(広報担当者)ながら、不動産テックによる住宅サービス提供企業が、YouTubeやTikTokなどの配信者にターゲットを絞った防音賃貸を供給したケースもある。

性能向上も進む
 他方で、音楽演奏を前提とした防音性能自体で差別化を目指す事例も散見される。ツナガルデザイン(東京都目黒区)は、防音賃貸「サウンドプルーフ」シリーズをコロナ禍以前から供給しているが、22年4月には室内音響を自由にカスタマイズできる「音響調整防音構造」で特許を取得するなど、防音性能の向上には継続的に注力している。

 また若干さかのぼるが、建築設計事務所のT.S.Architects(東京都世田谷区)は21年に東京都練馬区で「ムジカサクラダイ」(全8戸)を企画・竣工。「プロミュージシャン用のスタジオを上回る性能」(同社)と、高性能かつ密閉空間でも無音に近い換気設備とを両立させ、音楽演奏環境として最高レベルの品質を目指した。

  • 高収益ながら課題は事業リスク

 当然、そうした防音仕様には追加の建築コストが発生する。それでも各社が開発にしのぎを削るのは、賃貸物件の高付加価値化による競争力向上はもちろん、賃料の上昇にもつながるというメリットがあるためだ。一般的な賃貸物件と比較した場合、リブランは「コスト、賃料とも3割アップ」(菅原浩一宣伝部長)、アスコットは「開発コストは約10%、賃料水準は自社相場より15~20%増」(河本氏)と明かす。

 それでも「物件ウェイティングリストの実質人数は、20年の約300人から22年3月に約2200人、23年2月末には約3400人へと加速度的に増加しており、ニーズの顕著な拡大を感じる」とリブランの菅原部長は自信を見せる。アスコットの河本氏も、「自社物件のリーシングでニーズの多さと幅広さを実感しており、今後もマーケットは拡大すると見ている」とコメントした。

 もっとも、賃料の上昇に伴うエリア拡大の難しさは依然として課題だ。実態として高額な賃料を許容できるエリアは大都市に限られ、現状は供給もほぼ首都圏に偏っている。大阪圏のほか地方中核都市への進出を目指す動きはあるものの、その地域のニーズや賃料相場、ターゲット層の負担力などを精密に把握できなければ、追加の建築コストもあって事業リスクが高い。全国的な普及のためには、建築面でのコストダウンや入居者の所得向上などが期待されているところだ。

 加えて、河本氏は「出口戦略が今後の課題」とも指摘する。安定稼働する投資商品との自信はあるものの、これまで比較的大型の物件は開発企業が保有するケースが多かったこともあり、投資商品としての認知やニーズは発展途上。市場の動向は今後の運用実績の増加にかかっているとして、「出口戦略や大型物件へのチャレンジが課題でありチャンスでもある」と述べた。